就業規則(作成手続き)Q&A

就業規則(作成手続き)について、Q&A形式で法律と実務を解説します。

●就業規則は必ず作成しなければならないのですか?

→常時10人以上の労働者を使用する場合には作成しなければなりません。

就業規則を必ず作成・届出しなければならないのは「常時10人以上の労働者を使用する使用者」です。そのため、労働者が常時10人未満の場合には就業規則を作成・届出することは、法律上は求められていません。

ただし、就業規則は労働者と会社の労働契約内容となることから、常時10人未満であっても労働トラブルの防止に役立てるために就業規則を作成しておくことが望ましいと考えています。経験から、親族以外の労働者が1人でもいらっしゃる場合は就業規則を作成しておくことをお勧めします。なお、常時10人未満で作成した就業規則については、労働基準監督署への届出義務はありませんので、届け出ても届け出なくてもどちらでも問題ありません。

●「常時10人以上」はどのように数えれば良いですか?

→事業場(場所)ごとに、常態として勤務されている方を数えてください。

「常時10人以上」というのは、常態として10人以上の労働者を使用しているという意味です。例えば、常態として8人が勤務しており、繁忙期のみ更に2人を雇い入れたことで一時的に10人を超える場合には、ここで言う「常時10人以上」には該当しません。

また、就業規則の作成・届出は会社単位ではなく事業場(いわゆる場所)単位です。そのため、例えば複数の事業場がある場合には、それぞれの事業場ごとに「常時10人以上」に該当するかどうかを検討します。ただし、一つの事業場が単なる出張所である場合など、経営組織としての独立性を持たないような場合には、その事業場の常時労働者数は直近上位(例えば本社など)の事業場に含めて人数をカウントすることになります。

●週1日勤務のパートは「常時10人以上」に含めなくて良いですか?

→含める必要があります。

社会保険への加入・未加入や出勤の頻度、労働時間の長さに関わらず、常時使用されている労働者であればカウントする必要があります。

カウントするか悩むような労働者の方がいらっしゃる場合のお話ですが、カウントするかどうかで「常時10人以上」に該当するかどうかが分かれるほどの労働者数を使用する会社であれば、たとえ「常時10人以上」に該当しなかったとしても労働トラブルの防止の観点から、就業規則を作成する時期が到来したと考えて作成するのが望ましいと言えます。

●就業規則はどのような手続きで作成すれば良いですか?

→「作成」「意見聴取」「届出」の3つの手続きを踏んでください。

就業規則を制定・改定する際の手続きは、「作成」「意見聴取」「届出」の3つです。「作成」は文字通り就業規則を作成すること、「意見聴取」は作成した就業規則に対して労働者の過半数代表者から意見を聴いて意見書を作成すること、「届出」は作成した就業規則を労働基準監督署に届け出るという意味です。

●「意見聴取」で就業規則の内容に反対されたらどうすれば良いですか?

→反対意見をそのまま意見書に書いて届け出てください。

「意見聴取」は、就業規則の内容に対する意見を単に聴けば良いのであり、就業規則の内容について同意を得なければならないという意味ではありません。そのため、就業規則の内容に対して反対する意見があったとしても、その意見を聴いたうえで労働基準監督署に届け出れば手続き上は問題ありません。

●パートタイマー等の正社員以外の就業規則は作成しなくても良いですか?

→作成する必要があります。

常時10人以上の労働者を使用している場合、全ての労働者に適用される就業規則を作成して届出する必要があります。もし就業規則の適用がされない労働者が1人でも残る場合は、労働基準法に基づく就業規則の作成・届出義務を果たしていないことになり、作成・届出義務違反となります。

●正社員の就業規則のうち服務規律や人事異動等の部分をパートタイマーにも適用し、労働時間や賃金等の適用しない部分は労働契約によるものとしても良いですか?

→リスクが高いため避けてください。

まずこの場合、適用しない部分の就業規則は作成されていないことになるため、労働基準法に基づく就業規則の作成・届出義務を果たしていないことになり、作成・届出義務違反となります。

しかし、作成・届出義務違反よりも大きな問題があります。それは、パートタイマーの働き方によっては、正社員の就業規則をパートタイマーにも拡張適用すべきと主張されてしまうリスクがあることです。このようなリスクを回避するために、必ず全ての雇用形態について就業規則を作成しておき、雇用形態ごとの処遇を明確に区別しておくようにしてください。

●意見聴取する労働者の過半数代表者はどのように選出すれば良いですか?

→管理監督者以外の労働者の中から、選挙等の民主的な方法で選出してください。

まず、労働基準法41条2号のいわゆる管理監督者は過半数代表者にはなれません。そのうえで、労働基準法施行規則6条の2第2号に「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であつて、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと」と規定されており、その要件を満たすように選出する必要があります。

すなわち、投票や挙手等の民主的な手続きにより選出することが求められており、具体的には持ち回り決議や選挙、話し合い等によって選出することになります。当事務所の場合、この手続きを厳格に行う場合には、まず過半数代表者の立候補者を募集し、そのうえで立候補者が複数の場合は選挙、立候補者が1人の場合には信任投票というプロセスをお勧めしております。必要な場合には当事務所もサポートに入ります。

●過半数代表者は1年間の任期制にしても良いですか?

→良いですが、リスクが高いため避けてください。

1年に1回だけ過半数代表者を選出し、任期を1年間としてその間の就業規則の作成・変更の意見聴取、労使協定の締結をその過半数代表者と行うという運用をするケースがあります。任期制にすること自体は法違反ではありませんが、この場合に問題になるのは労使協定の法的効力です(就業規則の法的効力については別途解説)。労働基準法施行規則6条の2第2号に規定されている過半数代表者の要件に基づくと、過半数代表者の選出の過程で、任期中に締結する予定の労使協定を全て明らかにしておくことが必要になりますが、これは現実的には難しいケースが多いと考えられます。

せっかく締結した労使協定が無効と判断され、労働トラブル時に実損害が発生してしまうリスクを考えると、面倒であっても都度過半数代表者を選出することをお勧めします。

●パートタイマーの就業規則を変更する場合は、意見聴取する過半数代表者もパートタイマーでないといけないのですよね?

→いいえ、違います。パートタイマーでなくても問題ありません。

過半数代表者として選出された正社員に対してパートタイマーの就業規則に対して意見聴取を行い、労働基準監督署に届け出ることは全く問題ありません。逆に、正社員の就業規則に対してパートタイマーの過半数代表者から意見聴取することも全く問題ありません。

●意見書への署名や記名押印を拒否された場合はどうすれば良いですか?

→拒否された経緯を記した書面を添付して就業規則を届け出てください。

就業規則の意見書に対して、過半数代表者から署名や記名捺印を拒まれることが稀に起こります。この場合は、意見を聴いたことを客観的に証明できる書面を作成して、それを意見書の代わりに労働基準監督署に届け出すれば問題ありません。具体的には、意見を求めたが意見書への記入を拒否されたこと、再度意見書への記入を求めたが応じてもらえなかったこと、といった経緯を意見書不添付理由書という書面にまとめて就業規則に添付すれば、労働基準監督署は受理してくれます。

●就業規則の効力発生の要件となる「周知」とは何ですか?

→誰でもいつでも就業規則を閲覧できる状態に置いておくことを言います。

労働契約法7条・10条によると、就業規則の効力発生の要件の1つに「周知」が定められています。この周知とは、労働者が見ようと思えばいつでも就業規則を見られる状態にしていることを意味しています。また、周知媒体は紙である必要はなく、電子データであっても問題ありません。例えば、就業規則を印刷して誰でも入れる休憩室に置いておく、社内ポータルサイトにアップロードして労働者の誰でもアクセスできる状態にしておく、といった周知方法が考えられます。

この「周知」は、就業規則の効力発生の要になる部分ですので、会社の業務スタイルの実情に合った方法で確実に「周知」をしておきましょう。

なお、就業規則の「意見聴取」「届出」を行わなくても就業規則の効力は発生しますが、常時10人以上の場合は「意見聴取」「届出」を怠ると就業規則の作成・届出義務違反に問われますので、これらの手続きも確実に行うようにしましょう。

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